危険個所を探知するアンテナは立っていますか?
平成元年(1989年)、福岡県北九州市の市街地で、最上階から外壁のタイルが落下して死傷者を出す大事故が起こりました。
この事故を境に、以前にも増して建物への安全意識が叫ばれ、建物調査が盛んになりました。
国土交通省でも「特殊建築物等の定期報告」を義務付けており、5階建て以上のマンションは3年に一度、建物の仕上げ面などの状況を確認する必要があります。
又、新築後10年に一度は、タイルやモルタルなどの剥落の危険性がある仕上げ面に対し、打診、もしくは赤外線カメラなどを用いて全面調査することも義務付けられております。
どのマンションも、管理会社や専門業者に依頼し、10年に一度のタイル面・モルタル面の全面調査も踏まえて、定期的な報告を行っていることでしょう。
しかしこのような定期的な報告をおこなっているにも関わらず、一見して「あぶない!!」と叫んでしまうような危険個所が放置されていることがおおくあります。
どうしてこのようなことが起こってしまうのでしょうか。
タイル面・モルタル面などを中心に、危険個所は把握されているのですが、報告書で「要是正」となっていても、放置されていることはざらにあります。
また、調査漏れ箇所が、次第に大きくなっていくという劣化もあります。
「大規模修繕でやるんだから、放っておいていいよ」
それらの劣化箇所が剥落したところで、だれも怪我しないし破片が飛散した所で被害に遭うものは何もない、という明確な根拠があればそれでも問題ないでしょう。
しかしマンションを見上げて、到底手の届かない箇所に、タイル面のふくれや鉄筋の爆裂からのコンクリートの剥離が起こっていたらどうでしょう。
見上げているその時点でそれらがなんらかの拍子に落ちてきたら・・・ 夜のニュースや翌日の朝刊をにぎわすことでしょう。
調査の際、今にもタイル陶片やコンクリート片が落ちてきそうな箇所を発見し、それが重大災害に発展する可能性を少しでも秘めていたら、躊躇(ためら)わずに管理組合に「今すぐ落としましょう!!」と提案すべきです。それが人に危害が加わることを未然に防ぐ事ならば、躊躇うほうがおかしいです。
剥離箇所をそのままにするとそこから水が入りそうな場合は、撤去が容易な剥離シールなどで埋めて、タイルが剥げてコンクリート面がさらされている箇所や、コンクリート片が無くなって鉄筋が剥き出しになっている箇所などは、補修用の樹脂モルタルなどを塗布して保護しておくとよいでしょう。
「超」がつくほどの危険個所を目の当たりにして、「ではこれが落ちてくる前に撤去する見積を作成します。何日か猶予を下さい」なんて呑気なことは言わないで下さい。
落ちる寸前の写真を撮って、そこに転がっている脚立を使って劣化箇所を落とすくらい、そんなに時間が掛かるわけではありません。
落ちそうな箇所を取ったあとで、シーリングの処理や樹脂モルタルでの保護などは、そのあとで管理組合と協議すればいいことです。
なんでもかんでも「お金がかかること」と言って行動しない人、「これを放っておいたら誰かが痛い目をみる」としてすぐに動く人、その違いは管理組合の方も無意識に判断することと思います。
また、脚立などでは到底間に合わない程高い箇所も、管理組合と早急に協議し、ゴンドラや高所作業車、ガードマンなどを手配し、早めの対処を致しましょう。
このように劣化箇所を落とすとき、せっかくなので「要因はなにか?」を考えながら行うと、今後の補修の仕方への参考になります。
「自分のところが緊急工事をしたのだから、他の方には状況写真は見せません」なんて了見が狭いことは言わないで下さい。マンションの今後を考え、そこはみな同じ土俵に立つべきです。
このような「一見して」人に危害が加わりそうな場所だけではなく、住んでいる人やよく注意しないと分からない危険個所も存在します。
例えば、
・よく使われる手摺だが、子供の指が挟まりそうな危険な箇所がある。
・エキスパンジョイントのアルミ金物が、鋭利な刃物みたいにとび出ている箇所がある。
・階段の一番下の段が高くて、手摺を使ってようやく上ることができる。
などです。
「気を付ければいいんじゃないか」という人もいそうですが、重大事故というものは、そんな「大丈夫だろう」と放置した箇所で起こることが多いということを念頭に置いておくべきです。
「これは危ないんじゃないか」という感覚は、全員が同じわけではありません
。しかし、他の人が大丈夫というから・・ という理由のみで自分の意見を引っ込めることはして欲しくはないです。
管理組合に伝える機会があれば、思っている事はしっかり伝えて、しっかりと見積に反映して頂きたいです。