雑種犬ナナの後ろズリズリ
雑種犬ナナが、外犬としての生活が板についてきたある日、近所の方に言われました。
「ナナちゃんがいて助かるわー。知らない人に吠えるから、ここら辺は泥棒は来ないかもね。」
それは妻も言っていることでした。
知らない人・車、犬を嫌いな(嫌いと思われる)人、通りがかりの犬などに、とにかく吠える。
風で飛んできたゴミ、庭を横断するネコにも吠える。
身体に悪いからあんまり吠えないでと言っても吠える。
こんだけうるさいと近所迷惑かな、と思っている頃に、妻や近所の方にそのようなことを言われ、納得し、安心しました。
確かに、私が泥棒ならば、ここら辺では仕事をしたくありません。
どこか物静かな場所に移ります。
ついでにもっと金持ちそうな家を狙います。
家がある場所の隣の隣の通りくらいまでは、吠える声は聞こえているでしょう。
近所の人は家の前を通るとき、ナナに声を掛けてくれます。
散歩に出掛けると、やっぱりナナに声を掛けてくれます。
人付き合いが苦手な私も、ナナのおかげで少し得をしている気分です。
「ナナは近所の番犬」。それは言い過ぎではないと思います。
私が遠くから歩きで帰ってくるのも分かるのでしょう。妻曰く、「急にクーンクーンと言い出して、しばらくするとあんたが帰ってくるのよ」。
私が庭に顔を出すと、「ふせ」というよりは、カエルがつぶれたようにぺったんこになり、シッポだけ高速で回転しています。
ときには「ウレション」をしながら前にズリズリ進んできます。
いつ見てもかわいいですが、笑える光景でした。
ある日、いつものナナとは違う動きを目にします。
いつものように歩いて家に近づいていた時、ナナのけたたましい吠える声が聞こえます。
家の前を見ても、誰もいません。
あれ?吠えられてる?
ふと気が付きました。お酒が入っていることを。
においや歩調などがいつもと異なるのでしょう。
庭に行くまでずっと吠えてましたが、いざ庭に顔を出すと、ピタッと吠え止み、カエルのつぶれた格好で、ズリズリ後退していきます。
「いやいやいや、私吠えてませんよ!ずっとこうしてます!」
犬の言葉が分かれば、おそらくそんな一言でしょうか。
犬があんな動きをするなど夢にも思わず、「これは面白いネタになる」と思い、いつか動画に収めようとおもうのですが、次の機会も
その光景を目にし、噴き出してしまったあとで、動画に収めることを忘れていることに気付きました。
二度三度、後ろズリズリを見せてくれましたが、4度目は吠えるだけ吠え、姿を見せる少し前に犬小屋に逃げ込み、顔半分だけ出して様子を伺うという仕草に替えました。
次からはもう分かったのでしょう。 千鳥足で帰ってきても、普通に対応してくれました。
分かってもらえた安心感と、もうあの後ろズリズリを見せてくれない寂しさを半分ずつ感じた夜でした。
いつでも庭で迎えてくれるときは、カエルのつぶれた格好でシッポを高速回転させます。
しかし、その格好での後ずさりはもうしませんし、他に犬を飼っている人からもそんな仕草はしたことがないといわれます。
ひょっとして怖がられてるのでしょうか・・・